東京地方裁判所 平成10年(ワ)1858号 判決 1998年4月27日
原告
自由党
右代表者
石川八郎
被告
自由党
右代表者
小沢一郎
右訴訟代理人弁護士
米津稜威雄
同
長嶋憲一
同
佐貫葉子
同
野口英彦
同
増田充俊
同
世戸孝司
同
西畠義昭
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
前注
以下において、「政治団体」とは政治資金規正法(昭和二三年法律第一九四号。以下「法」という。)三条一項に規定する政治団体をいい、「政党」とは同条二項に規定する政党をいい、「政治資金団体」とは法五条一項二号に規定する政治資金団体をいう。
第一 請求
一 被告は、「自由党」の名称を使用してはならない。
二 被告は、原告に対し、八〇〇万円及びこれに対する平成一〇年二月一四日(本件訴状が被告に送達された日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、原告が既に「自由党」の名称で政治団体の届出をし、右名称が告示されていたにもかかわらず、被告が「自由党」の名称で政党の届出をした行為が違法であると主張して、被告に対し、「自由党」の名称の使用禁止及び損害賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実
1 原告は、平成元年五月一〇日、自治大臣に対し、法六条一項の規定により、「新自由党」の名称で政治団体の届出をし、さらに、同月二二日、自治大臣に対し、法七条の規定により、その名称を「自由党」に変更した旨の異動の届出をし、自治大臣は、いずれもそのころ、法七条の二第一項の規定に基づき、その名称等を告示した。
2 被告は、平成一〇年一月五日、自治大臣に対し、法六条一項の規定により、「自由党」の名称で政党の届出をし(以下「本件届出」という。)、自治大臣は、そのころ、法七条の二第一項の規定に基づき、その名称等を告示した。
二 争点
本件の主な争点は、本件届出が違法であるか否かである。
(原告の主張)
1 本件届出は、法六条三項に違反する。仮に、同項が政党及び政治資金団体の名称のみを保護する趣旨の規定だとすると、同項は、憲法一四条に違反する。
2 仮に、本件届出が法六条三項に違反しないとしても、本件届出は、権利の濫用に当たり、公共の福祉に反するほか、国民の参政権行使に混乱を招き、原告の政治活動を妨害する行為である。したがって、本件届出は違法である。
(被告の主張)
1 法六条三項は、政治団体が政党若しくは政治資金団体と同一又は類似の名称を届け出ることを禁止したものであって、その他の政治団体(政党及び政治資金団体以外の政治団体をいう。以下同じ。)と同一又は類似の名称を届け出ることを禁止したものではない。
2 被告は政党であるが、原告はその他の政治団体である。したがって、本件届出は、同項に違反しない。
第三 争点に対する判断
一 法六条三項は、政治団体が法七条の二第一項の規定により告示された政党又は政治資金団体の名称及びこれらに類似する名称を用いてはならない旨規定するが、その趣旨は、現行の政治資金制度が政治資金の調達を政党中心にしようとするものであることから、政党及び政治資金団体とその他の政治団体との識別を明らかにして類似の名称等による混同を避け、国民が寄附等をするに当たって混乱を生ずることのないようにし、政治資金の調達の公明と公正を確保しようとするところにあるものと解される。
右の趣旨に照らして考えると、法六条三項によってその名称が保護されるべき政治団体は、同項の文言どおり、政党及び政治資金団体に限られ、その他の政治団体を含まないものと解すべきである。
そして、証拠(乙一の1ないし4)によれば、原告は、その他の政治団体であることが認められる。
したがって、本件届出は、同項に違反しない。
二 原告は、法六条三項が政党及び政治資金団体の名称のみを保護する趣旨の規定だとすれば、同項は、憲法一四条に違反する旨主張する。
しかしながら、法は、政党本位の政治資金制度を確立するため、政治団体のうち一定の要件に該当するものを政党とし(三条)、政党のみが政治資金団体を指定することができるものとした上(六条の二)、政党及び政治資金団体とその他の政治団体との間に、寄附の制限等に関し、取扱い上の差異を設けており(二一条の三、二二条、二二条の六など)、六条三項も、かかる取扱い上の差異を前提として、前記一で述べた趣旨により、政党及び政治資金団体の名称を保護することとしたものである。
右によれば、同項が政党及び政治資金団体の名称のみを保護することには合理的な理由があるといえるから、同項は、憲法一四条に違反しない。
三 さらに、原告は、本件届出が、権利の濫用に当たり、公共の福祉に反するほか、国民の参政権行使に混乱を招き、原告の政治活動を妨害する違法なものである旨主張するが、本件全証拠によっても、右事実を認めるに足りない。
四 以上に見たほか、本件届出が違法なものであったことを認めるに足りる証拠はないから、原告の被告に対する本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。
(裁判長裁判官丸山昌一 裁判官永野圧彦 裁判官鎌野真敬)